日常の生活で犯罪の被害に巻き込まれたのであれば頼るのは警察です。 その場で「110番」、闇雲に交番や警察署に駆け込む、緊急性が高い状況であれば必要な行動です。 しかし、不要不急の通報は行政機能を麻痺させるだけでなく、時には被害者の負担が大きくなります。 日本の警察は「気軽に通報してください」など、国民と身近な存在であることを掲げていますが、あくまで建前ですので、これら実務とは異なることを認識するべきでしょう。 本記事では、主に窃盗の被害における対応、さらに注意点などを解説します。
窃盗の被害を認知したら
窃盗の被害は大きく二つに分けられます。
それは「侵入窃盗」と「非侵入窃盗」です。
「侵入窃盗」とは、空き巣など住居や建造物に侵入して財物を摂取することを指します。
「非侵入窃盗」とは、仮睡盗や自転車窃盗など野外の犯行を指します。
侵入窃盗の場合には犯人が潜んでいる可能性など緊急性や悪質性が高いことから、「安全な場所まで離れて」速やかに「110番」をしましょう。
本記事では「非侵入窃盗」の被害における、仮睡盗、置き引き、自転車窃盗について解説します。
まず、非侵入窃盗の被害に気が付いたら被害者が取る選択肢は四つです。
① 被害届を出す
② 遺失届を出す
③ 相談受理番号を発行してもらう
④ 諦める
被害届とは、犯罪の被害を警察に届け出るための書類です。
本来の制度趣旨では、被害者本人が作成する書類ですが、実務上の理由から警察官が被害者に代わり代書します。
被害届が警察に受理されると犯罪行為が認知されますので、状況によりますが捜査が開始されます。そのため、親告罪であれば犯罪の事実が明確でも被害の訴出がなされなければ捜査はされません。
なので、被害届とは警察に対して「捜査をして欲しい」と求めるための手続きなのです。
このことを、専門的な用語で「処罰意思」と言うのですが、言葉の通り特定の人物を被疑者とする手続きとなるため、人権を重んじる日本の司法は厳格な規定を捜査機関に課します。
被害届とは、捜査が前提となる書類です。
「紛失したかもしれない」「いや、盗まれたのかな」
このような曖昧な状況では被害届は馴染みません。
これが通用するのであれば「貴方は犯人ではないかもしれない」「いや、貴方は犯人かもしれない」こんな杜撰な捜査から特定の人物を被疑者として拘束する国家が罷り通る社会になります。
ここで被害届の趣旨について触れるのであれば、国民は被害届を届け出る権利があります。
つまり、状況、場所、内容、これら制限を科されることなく、各種法律に抵触する可能性がある犯罪行為について日本国内であれば警察は被害届の受理を拒めません。
前述では、犯罪行為が曖昧な状況では「被害届は馴染みません」と説明していますが、被害届を出す行為は権利ですので「馴染まない」だけで「その行為」を強行することも可能なのです。
しかし、交番や警察署で無理やり被害届を警察官に代書させたとしても、被害届の受理を警察官が拒む背景には、捜査が困難または司法との兼ね合いから積極的に警察が捜査する可能性は低いのです。
被害届を出すためには、書類の作成や現場の確認、各種調書など、多くの時間が掛かります。
その結果、警察が捜査しないのであれば無駄な時間と労力を消費することになるので「コストパフォーマンス」は極めて悪いです。
次項でも解説しますが「警察官が被害届の提出を拒む理由」は、被害者と警察官、共に無駄な時間を消費することになるからです。
そのため、犯罪の事実が曖昧な状況においては遺失届を出すことを勧めます。
遺失届とは、名前の通り「紛失しました」と届け出る書類です。
日本では、落し物は警察に届けられます。
遺失届を出すことで、紛失した物品の検索や、名義品等が警察に届けられた場合には遺失者に連絡がいきます。
また、遺失届とは、犯罪捜査に関わる書類ではない(人権の制約とは無関係)ため、適当な状況でも受理してもらうことが可能です。なので、遅くても約30分程度の時間で届け出ができます。さらに、警視庁ではオンラインで遺失届を提出することも可能です。
遺失届ではなく被害届を出したい状況があるかもしれません。
それは、保険の適用などです。
そもそも、被害届とは「被害者の処罰意思」を尊重するための手続きです。
そのため、保険の適用、つまり金銭的な利益のために警察を利用する行為になるので被害届を提出すること対して歓迎はされないでしょう。
されど、多くの人々は処罰意思よりも被害品が返還されることや損失を補填することを優先する心理は当然と言えます。
酔っ払って路上で寝ていたらスマホが無くなっていた。保証を受けるためには被害届の番号が必要なんだよな。
著者が警察官として勤務していた経験から、保険の適用を受けるために被害届を出したいと交番に訪れる人物は多くいました。
ここで、注意しなければならないことは警察官に被害届を受理させるために「虚偽」の申告をすることです。被害届が馴染まない(紛失した可能性が高い)状況にも関わらず、窃盗であるように事実を変えることは文書を偽造しているのと変わりません。
著者の経験として、保険の適用であれば「相談受理番号」でも被害届の受理番号の代わりとして認められる場合があります。
相談受理番号とは、警察に相談したことを証明する番号です。相談受理番号は遺失届と同じく厳格な書類ではないため、比較的に短時間で手続きが完了します。相談受理番号が必要な場合には所管の警察署(交番では基本的に対応はしていない)に事前に連絡してから赴くことを勧めます。
路上で寝ていたら財布から千円抜かれた。目を離したら傘を置き引きされた。
どんなに小さな犯罪でも徹底的に取り締まるべきでしょう。
割れ窓理論が示すように、小さな犯罪を見逃すことが結果的に全体の治安が蝕まれる要因になります。
しかし、時には諦めも肝心です。
これは、著者が犯罪を助長しているのではなく、警察のキャパシティにも限界があると言うことです。
被害届を出す行為は権利ですので、それを拒むことはできません。
ですが、その行為に意味があるかと聞かれたら「はい」とは答えられません。
その理由は、無駄な時間と労力を消費するだけだからです。
被害届の作成は場合によっては受理まで4時間以上掛かります。これら時間や労力に担う対価は恐らく期待はできないでしょう。
警察にも、対応できる事件の件数に限界があります。
そのため、捜査もされない被害届を作成することに合理的な意味を見出すことは難しいのです。
次項では、被害届が受理された場合に捜査される優先順位を解説します。
被害届を出すことで警察が捜査するとは限らない
被害届を提出したら捜査をしてくれるの?
被害届を出すことで警察が捜査をするとは限りません。
その理由は、被害の件数が多いからです。
警察が処理できる事件の件数には限界がありますし、そもそも、捜査することで犯人が検挙されるとも言えません。
一般の人々は犯罪捜査において容易な印象を抱いている傾向にありますが、その想像よりも遥かに時間や労力が必要なのです。
具体的な事例を挙げるのであれば、防犯カメラに犯人の様子が映し出されている状況や盗難の被害品にGPSが付いている状況、多くの人々は「犯人が特定できる」「証拠もある」このような理由から「犯人を直ぐに捕まえてくれ」と警察に求めるでしょう。
しかし、このような状況でも警察が実際に犯人を検挙するまでには、多くの時間と労力が掛かります。
これは、警察の職務怠慢が原因なのではなく日本の司法制度から捜査機関に対して厳格な規定を科しているからです。
著者は元警察官です。そこでは、休憩や休日を返上して働く捜査員を見てきました。それでも、膨大な書類や証拠集めから仕事が終わらないのです。
一般の人が「犯人が特定できる状況なのだから早く逮捕してよ」と想定しても、実際にはその何倍も難しいのです。
一つの事件を処理するまでにどれくらいかかるの?
事件を処理と言っても、裁判までを含むのか様々な段階があります。
ここでは検察に送るまでと仮定しましょう。
事件の内容や大小により異なりますが、1週間以上の時間を有することは確実です。
捜査員の労働時間が1日8時間と仮定して、その間は書類に忙殺しなければなりません。
なので、一般の人々が「警察は職務怠慢だ」と捉えてしまうこと(捜査に時間がかかる)の裏側には、様々な理由があるのです。
捜査に多くの時間と労力が掛かるのは理解できたけど、捜査する事件の選定はどのように行っているの?
被害届は受理件数は膨大です。
犯罪捜査は警察署の刑事課が担当するのですが、もちろん、被害届の捜査に限らず事件対応など他の業務も兼ねています。
そのため、すべての犯罪を捜査することは不可能です。
となると、捜査する事件の選定が不可欠となります。
警察が受理した被害届の内、捜査に取り掛かる要件とは大きく分けて「証拠があるか」「悪質性の有無」です。
「証拠があるか」とは、仮睡盗や置き引きならば防犯カメラが設置されているか、犯人の遺留物があるのか、などです。
もちろん、凶悪犯罪などは「証拠の有無」に関わらず、犯人が見つかるまで捜査をするのですが、軽犯罪の場合には、それのみに膨大な時間や人員を割くことは現実的ではないことから、事件に優先順位を付けるのです。
「悪質性の有無」とは、その言葉の通り犯行が悪質であるかです。
専門的な言葉では「偶発的な犯行」と呼ぶのですが、事例を挙げると「路上で寝ていて財布を取られた」もしくは「自宅に侵入されて財布を盗まれた」これらを比較すると、後者の犯行は容易周到であり悪質性が高いと言えます。
被害者に落ち度が少ない犯罪においては悪質性が高い場合が多く、反対に自業自得の被害においては偶発的な犯行である場合が多いのです。
そのため、警察が捜査に取り掛かる優先順位は「悪質性が高い」犯行からになります。
なので、仮睡盗や置き引きの被害においては警察が捜査する可能性は非常に少ないのです。
被害届の手順や内容
被害届は日本国内の犯罪であれば、どの都道府県警察が所管する警察施設でも提出することが可能です。
被害届を提出する場合には、どこの交番や警察署が好ましいのかの解説は事項でします。
被害届は本来、被害者本人が警察に提出する書類です。
その内容は「私は○○の被害を受けましたので捜査をしてください」と警察署長宛に提出する書類です。非親告罪を除いては被害届が受理された段階で事件の捜査が開始できます。その手続きが「被害届」なのです。
被害者が作成する書類である被害届ですが、実際は警察官が代書という形で作成します。
そのため、基本的には、警察官の聴取に応じながら被害届を作成するため「被害届を作成しておいてください。後でまた来ます」このような対応はできません。なので、被害届を出す場合には1時間以上掛かることが多いと言えます。
しかし、自転車窃盗の被害届では、簡易的な書式であるため比較的に短時間で済みます。
自転車の被害届は短時間、他の犯罪における被害届は作成に多くの時間が掛かる、この認識で問題はありません。
実際に被害届の作成を警察官に依頼する場合には、特に被害者がすることはなく警察官の質問に返答するだけです。
被害届の作成が終了したら、仮睡盗や置き引きの場合には現場の確認に行きます。
現場の確認では被害者の立ち合いが必要なことから「後はお願いします」と帰宅することはできません。
このことを「見分」と呼ぶのですが、見分では被害品が置かれていた場所や被害者が寝ていた場所の特定(距離の測定や写真撮影など)を行います。
他にも、現場に監視カメラが設置されている場合には、捜査報告書の参考情報として被害者の撮影を実施することもあります。
これら、被害届を提供するためには、他の書類作成に伴う協力や立ち合いが必要です。
被害届のみならず合計で拘束される時間は4時間以上にもなる可能性があるので注意しましょう。
事前準備と注意点
「被害届を出すために交番まで行ったけど。。。遠回しに追い返された。。」こんなことを防ぐための注意点を解説します。
被害届を警察に円滑に受理してもらうための注意事項や準備を解説します。
まず、被害を認知した場合には「110番」ではなく「警察署に電話」することを勧めます。
もちろん、緊急性が高い場合には「110番」を活用するべきでしょう。
しかし、置き引きや仮睡盗、自転車窃盗などは緊急性が高いとは言えず、人命に関する通報や緊急性が高い通報を妨げる可能性があることから、なるべく控えるべきです。さらに、110番通報をすると通信指令本部につながり、そこでは他の110番対応のために詳細の聴取は行われません。そのため、被害届の受理ができない状況にも関わらず現場で警察官を待たされた挙句に「明日また来てください」など、無駄な時間を消費することになります。
では、どこの警察署に電話をすればいいのでしょうか。
それは、その地域を管轄する警察署です。
窃盗の被害であれば「盗まれた場所」です。
その場所を管轄する警察署を調べる方法は、地図等で検索して最寄りの警察署に電話で確認することが確実であると言えます。
被害の場所(住所)を電話で伝えることで、その地域を管轄する警察署につないでくれます。
前述したように、被害届は日本のどこの警察でも受理が可能です。
なので、北海道での被害を沖縄の警察が受理することも制度上は可能です。
しかし、警察にはそれぞれ管轄があります。
そのため、被害の発生場所を管轄する警察署で被害届を提出することが、円滑に捜査につながるのです。
その具体的な事例を挙げるのであれば、他の管轄で発生した事件の被害届を受理した場合には書類など、管轄する警察に引き継がなければならないため大きなタイムロスになります。窃盗の被害であれば、管轄が異なるため被害現場に警察官が臨場することができず、証拠として活用できる防犯カメラ映像の保存期間が終了したことで検挙できるはずの犯人を逃したりと不利益が生じます。
さらに、書類の訂正や聴取の協力を求められた場合には、複数の警察署に出頭する可能性が生じるため被害者の負担も増えます。
そのため、被害届を提出する場合には、被害場所を所管する警察署で受理してもらうことを勧めます。
それでは、被害届はどこで受理してもらうのでしょか。
被害届は、警察署や交番、駐在所など、あらゆる警察施設で提出ができます。
しかし、交番や駐在所では110番通報の対応が主な業務であることから、警察署が好ましいでしょう。
交番や駐在所では、訪問者の対応、さらに緊急時は被害届の対応が難しく、交番や駐在所に警察官がいないことも多いのです。
なので、被害届を出したい場合には事前に警察署に連絡(アポを取る)をしてから、管轄する警察署に行きましょう。
被害届を受理してもらうためには、準備が必要です。
まず、被害届を提出するためには、被害者本人が赴く必要(※例外有)があります。
その際には、公的な身分証を持参しましょう。
他の注意点として、被害品の特定、場所の特定、時間の特定が求められます。
被害品の特定とは、「何を盗まれたのか」を明白にすることです。
財布であれば、色や形、大きさ、ブランド、製品番号など、情報は多いに越したことはありません。
自転車の盗難被害であれば、特徴以外にも「防犯登録番号」と「車体番号」が必要となります。
上記二点が被害届の受理に必ずしも必要であるとは言えませんが、自転車の特徴だけを記載した被害届だけでは捜査や盗難登録ができないことから無意味な手続きになります。
そのため、防犯登録や車体番号は自転車の購入店舗で調べることが可能ですので、事前に確認を済ませましょう。
場所の特定とは、「どこで盗まれたのか」を明白にすることです。
「ここで盗まれたのかもしれない。いや、あっちかもしれない」これでは、盗難の被害届としては馴染みません。
前項で説明している通り「遺失届」の提出を勧めます。
時間の特定とは、「この時間で盗まれました」と時間を特定することです。
「昨日盗まれたかもしれない。いや、今日かな」これでは、場所の特定と同じく盗難の被害届としては馴染みません。
最後に紹介する注意点は「酔っぱらっている状態」で被害届の提出を依頼することです。
警察官が作成(被害届)する書類は、裁判まで活用されます。なので、酔っぱらっている状態の中途半端な言動から無責任な書類は作成できないのです。
そのため、酔いが冷めた状態で警察に相談しましょう。
① 被害届は被害場所を管轄する警察署で提出することがベスト。
② 被害届は交番ではなく警察署で提出するのことがベスト。
③ 被害者本人であること、公的な身分証明書の持参を忘れないこと。
④ 被害品、被害の場所と時間を明白にすること。
⑤ 自転車の盗難被害なら防犯登録番号と車体番号の確認を済ませること。
⑥ 酔いが冷めてから警察に相談すること。
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